コロナ禍でインバウンド客が激減し、売上が半減した黒門市場の不動産賃貸業S社。江戸時代より続く”天下の台所”の中心に3階建てのビルを構え、主に飲食店をテナントとしてきましたが、1階の飲食店はすべて撤退してしまいました。そんな危機的状況の中、S社は事業再構築補助金を活用して、市場内の専門鮮魚店と連携して回転寿司事業に進出することを決めました。

 

「地元の人が利用する市場の原点に立ち返りたい」と語るS社の代表は、空き状態となっているビルの1階を、高単価・高付加価値の回転寿司店に改装する計画です。ミシュランの星付き料理店をはじめとする高級料亭にも卸している市場内の老舗鮮魚店に仕入れ・加工・保管をしていただくことで、プロがさばく新鮮で高級なネタを提供します。回転寿司の市場はテイクアウト需要もあって拡大しており、またS社の調査では、黒門市場における回転寿司への期待と、価格が高くても利用したい人が多いことが分かっています。

 

S社の取り組みは、市場の鮮魚店の売上を支えるだけでなく、市場全体の集客にもつながります。黒門市場は、知名度はあるものの日常的にはあまり利用されず、訪れるのは年末の買い物のみという傾向があります。しかし、S社が集客の起爆剤となって、市場の魅力を再発見してもらえると期待されます。

 

「これまで支えられてきたインバウンド需要は、今回のような世界的な感染症や政治情勢といった不測の事態に左右されます。これに依存することなく、市場の原点である地域に密着した営業に回帰する重要性を痛感しています」とS社の代表は語ります。市場商店街の新しいビジネスモデルとして、同じく苦境に立つ全国の市場や観光地の参考になればと考えています。

 

S社の回転寿司店を、黒門市場の新たな名物として、多くの人に楽しんでいただきたいと思います。